藤村克裕雑記帳
2020-09-24
  • 色の不思議あれこれ186
  • 横浜に行ってきた
  •  横浜で川俣正が作品を作っている、という情報を得たので、思い切って行ってみるか、と家人と相談し、横浜に住む長男夫婦との久しぶりの“昼食会”も段取りして、横浜・馬車道に出かけた。
     地下鉄馬車道駅構内に、あれがそうかな、とひとつ見つけた。工事用の金属製の仮囲いの“板”と工事用のタンカンで筒状の工作物が組み上がっていた。周囲に樹脂製の無粋な柵が巡っている。様々な人が通行するので安全のためだろうか。なんだかなあ、と思っていると、一人の若者が現れて柵を取り外し始めた。家人が若者に、やっぱりこの柵は取り外すのね? とか、話しかけている。若者は作業の手を休めずに、はい、中にも入れますから、とか応じている。
     柵がなくなるとスッキリして、全体がひとまわり大きくなったような感じがした。中に入ると、自然に上を見上げてしまう。
     先がややすぼまった筒状の大きな構築物を川俣が作るようになって久しい。なので、形状や大きさに驚かされるということはない。川俣はプレファブの倉庫を使ったことはあったが、工事用の仮囲いの金属板を使うのは初めてかもしれない。とはいえ、同一の素材を一つの単位としてそれを集合させていく、というのは毎度おなじみになっている。つい、その「作り方」を観察して、その合理性に目が向いてしまう。川俣の方も「作り方」を隠したりしない。むしろ、あらわにしてきた。この「筒」も極めて合理的に作られているとともに、川俣らしいリズムの構築が内側からも外側からも見て取れる。単一の素材であっても決して退屈させない。
  • 表に出るとBank Art Temporaryの建物に大掛かりな“覆い”が作られつつあった。あれだ。ふたつめ、見つけた。
     やや離れたところに、黒眼鏡、黒上下の男が立って“工事”の監督をしている。お、川俣か? 久しぶりに挨拶しようかな、と思って近づいて行くと、違う。川俣にしては若い。若すぎる。すぐ後ろに三脚にカメラをセットして“工事”の様子を撮影しているらしき人もいる。黒眼鏡の男は、“工事”をしている人たちに、あともう20センチくらい下げてください、とか指示を出している。耳にイヤホン、どうやら、パリの川俣が後方のカメラからの映像を見ながら、あそこの板をもう20センチ下へ、とかいう指示を出しているらしい。「リモート」というやつである。へえ! と思ってしまった。 
     コロナがこんな風に川俣のつくり方を変化させている。川俣が現場にいなくても、リアルタイムの映像を介して作ることができるのである。川俣が芸大先端の教授を引き受けたとき、盛んに「パソコンと寝袋」と言っていた。今や、寝袋は別の人が使ってもいい、ということになった。
     建物の中にももうひとつの作品が設置されていて、資料映像のプロジェクションもある。会場の隅に、先日亡くなった原口典之さんの映像がさりげなく映されていて、追悼の粋なはからいに多くのことを感じてしまった。
     “昼食会”後、新高島駅すぐのBank Art Stationで、2012年以降の川俣作品の写真パネルと最初期からの多くの模型を見て、さらにいろいろ感じさせられ、各駅停車に乗って帰路についた。
     川俣の歩みはひと時も止まらない。
    (2020年9月19日、東京にて)


    会期|2020年9月11日[金]~10月11日[日](休場日:毎週木曜 ※10/8を除く)
    時間|11:00~19:00 
    会場|BankART Station、BankART Temporary、馬車道駅構内
    料金|¥1,000(一般)、¥600(大学生、専門学校生、横浜市民/在住)、
       無料(障がい者手帖お持ちの方/付添1名・高校生以下・65才以上)

    ヨコハマトリエンナーレ開催中お得なセット料金もあります。

    公式HP

    http://bankart1929.com/life6kawamata/





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  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
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