藤村克裕雑記帳
2022-02-22
  • 色の不思議あれこれ211
  • 高崎での空き時間に
  •  用事で高崎に行ったのだが、用事は早く済んだので、駅の近くだけだが、あちこち歩いてみた。高崎には何度か訪れたことがあったが、自分で運転したり、息子の車に乗せてもらったりで、目的地以外に実際に降り立って歩く、ということをしたことがなかった。朝まで降っていた雨も上がって晴れ渡り、気持ちの良い日だった。
     まず、高崎市美術館が駅から近いので行ってみた。美術館前の歩道の傍に肉感的な蹲る女性の姿を捉えたブロンズ彫刻が据えられている。なかなかの技量の作家と見たが、作者名を失念、申し訳ない。
     建物に入ってチケット売り場に行くと、なんと65歳以上は無料だという。なんだか申し訳ないような気もしたが、美術館の決まりに従って(?)無料で見物をさせてもらった。この美術館の収蔵作品から選んで構成した「5つの部屋+I(プラスアイ)」という展示。
     最初の部屋に足を踏み入れると、額縁入りの比較的小ぶりの作品が並んでいる。どれも見応えがあって、ちょっと驚いてしまった。あなどれない。山口薫、鶴岡政男、オノサト・トシノブ、福沢一郎などが並んでいた。
     2階には「新人画会」に焦点を合わせた部屋がある。鶴岡政男、井上長三郎、大野五郎、糸園和三郎、麻生三郎、吉井忠、寺田政明、ときて木内克の彫刻もある。松本竣介や靉光がないのがやや残念ではあるが、無理は言うまい。
     2階にはもう一つ、「エコール・ド・パリ」の部屋もある。版画作品が多いのはやむを得ないだろうが、藤田嗣治の『雪の郊外の風景』(1918年)には驚いた。空の超微妙な調子を形作る塗り込んだ絵の具の物質感がすごい。ピカソの版画もまじまじと、じっくりと見ることができた。二枚組の「フランコの夢と嘘」には思わず「ヘタウマ」を思い出してしまった。
     「アヴァンギャルド」をまとめた3階の部屋では、瑛九、元永定正、難波田龍起、山口長男、斎藤義重など。国画会・井上悟氏夫人でもある井上八重子氏の作品には意外な驚きがあった。氏は高崎出身だったようである。
     3階のもう一つの部屋には「寄贈作品」「委託作品」という妙な括りの部屋。山口薫の初期の絵も本当にさりげなく展示されている。
     そんなわけで、総じて面白かった。お客さんもポツリポツリという具合ではあったが途切れることはないようで、結構なことである。
     とはいえ、“廊下”には写真作品の展示や井上房一郎の資料の展示があったものの、いわゆる「展示室」だけの展示で、なんだか美術館全体の空間の使い方がとてももったいないような印象も受けた。
  •  この美術館には、「旧井上房一郎邸」がその庭を含めて付属している。というか、「旧井上房一郎邸」の場所に美術館を作ったのであろうか、ともかくその邸宅が公開されていた。不勉強で、この人のことも、建物のことも全く知らずに出くわしたものの、高崎市や群馬県の文化にとって極めて大事な人物、ということを知り、勉強になった。
     建物は麻布にあったアントニン・レーモンドの自宅兼事務所の写しだというが、大きな居間のスペースを支える足場丸太の構築の仕方がとても面白かった。庭に別に「仏間」や「茶室」、「物置」があって、「仏間」の畳に庭の樹木からの木漏れ日からの光の筋が生じていてしばし見惚れてしまった。
     そんなわけで、美術館は面白かったのだが、あとはもう当てずっぽうで歩いたのである。駅前は東京と何も変わらないが、少し駅から離れるだけで、なんだか不思議な建物が目についてくる。
     植物にすっかり覆われてしまった建物や、壁が斜めに迫り出していたり、なぜわざわざこういう構造物を作ったか俄には理解し難い建物などがそれであるが、他の街に比べてそういうものが多いような気がしたのは、あまりに無責任な時間だったからか。
     スマホ写真を撮ったりしながら、古本屋を見つけて歓喜し、つい物色したりなどもし、さらにぶらぶら歩いているうちに、「高崎城址」というところに行き着いた。
     私は不覚にも、高崎にお城があったことを知らなかった。戦時中は歩兵第十五聯隊が置かれてもいたようである。今は、コンサートホールやギャラリーというような複合的な文化施設があって、それぞれ大胆なデザインのとても大きな建物で、見物していて退屈しなかった。
     たまたまその「高崎シティギャラリー」で開催中だった「群馬県立女子大学美学美術史学科実技ゼミ卒業修了制作展2022」というのを見物でき、それはそれなりに面白かった。
     そんなわけで、ポッカリと空いた時間も、なんのアテもない時間もいいものだなあ、と思った高崎での数時間だった。
    (2月20日、東京にて)
    「5つの部屋+I 多彩なコレクションで巡る高崎市美術館30年のあゆみ」

    会期:2022年1月15日(土曜)~3月27日(日曜)
    会場:高崎市美術館
    時間:午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
    金曜日のみ 午後8時まで(入館は午後7時30分まで)
    観覧料:一般:100(80)円
    大学・高校生:80(50)円
    ※( )内は20名以上の団体割引料金

    旧井上房一郎邸
    【邸内公開時間】
    午前10時~11時、午後2~4時
    ※予約不要。混雑状況により入室制限となる可能性がございます。

    【庭園】
    1月~2月:午前10時~午後5時(入園は午後4時30分まで)
    3月:午前10時~午後6時(入園は午後5時30分まで)
    ※予約不要。

    会期中の休館日
    2月24日(木曜)・28日(月曜)
    3月7日(月曜)・14日(月曜)・22日(火曜)

    公式HP:https://www.city.takasaki.gunma.jp/docs/2021111900018/

    画像(上)鶴岡政男《香り》1963年頃 油彩・キャンバス
    画像(下)山口薫《緑の花嫁》1956年 油彩・キャンバス




  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
当サイトに掲載されている個々の情報(文字、写真、イラスト等)は編集著作権物として著作権の対象となっています。無断で複製・転載することは、法律で禁止されております。