藤村克裕雑記帳
2019-08-26
  • 色の不思議あれこれ141
  • 室生寺釈迦如来坐像と坂本繁二郎 その1
  • 東京・上野公園は人でいっぱいだった。私と家人は人と人との隙間を巧みにすり抜け、同時に日陰を求めながら東京国立博物館への道のりを急いだのだった。なんでも、室生寺の、あの「十一面観音菩薩立像」がわざわざ上野までやってきているらしい。見逃す手はない。手もないが時間もなかったのだ。
     チケット売り場で知ったが、「奈良大和四寺のみほとけ」展は特別展とはいうものの、常設展示の料金で見ることができるのである。すごく得をした気分になった。
     会場の本館11室は正面入り口から右すぐの一階にある。巡っていくと、やがて思いがけず岡寺の「義淵僧正坐像」に出くわして、ギョギョッと驚かされた。全く予想していなかったからだ。これがとてもリアル。迫力満点。というのも、たとえば、結跏趺坐した足の表現がすごいのである。衣の襞の下に隠れてはいるが確かにそこにある両足裏始め脚の形状など巧みに捉えられている。解説を見れば、なんと塑像。そうかあ、塑像って作り方がちゃんとは分かっていないんだよね、とか思いながらも、像に圧倒されていてそれどころではない。義淵僧正とは岡寺の創健者。思わず長い間あちこち見入って息をつき、ふと隣に目を移して、じぇじぇじぇ、さらにびっくりした(じぇじぇじぇはさすがちょっと古いか?)。
     そこに展示されていたのは、室生寺の「釈迦如来坐像」。一目見て仰天した。すごいぞ。シャープすぎる。この像は、私のような者でも大昔からよく知っている超有名な仏像なのである。ただし、写真図版を通してだったのだ(室生寺には大昔に訪れた事があるが、ほかのことに気を取られ、この像の記憶がない)。この時、目の前に突如出現したのは、見知っていた写真図版からの印象から遥か遠く隔たった像だった。写真図版ではボッテリとした印象だったのに、現物はシャープ極まりない。ついさっき彫り上がったばかり、のように見える。どこをとっても素晴らしい。非常に美しい。ずっと見ていたい。説明に「一木造り」とあって、さらにビックリした。いったい、どれほどの大木を用いたものだろう。とかの“雑念”も、ただちにどこかに行ってしまうのだった。そのくらい没入してしまった。
     当初の目的の室生寺「十一面観音菩薩立像」にももちろん堪能ということをさせてもらったのだが、ともかく、これらの展示には、結界は設けられているものの、ガラスなどはなく、明るい照明の下でかなり近くまで寄ったり、横に回り込んだりして心ゆくまで鑑賞・観察できたのが嬉しい。博物館の粋なはからいに感謝し、後ろ髪を引かれながら会場をあとにしたのである。
     この展示は9月23日まで。ああ、また行きたい。ゆっくりと。
    つづく→
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  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
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