藤村克裕雑記帳
2019-04-02
  • 色の不思議あれこれ128
  • 「VOCA」展、「表層の冒険」展、「百年の編み手たち」展
  • 「VOCA」展、「表層の冒険」展、「百年の編み手たち」展

     ここ数日間で表記の展覧会を訪れて、ムッチャたくさんの作品を見た。なぜか? 無料だったからだ。ビンボー症ここに極まる、といったところ。
     「VOCA」展(上野の森美術館)は、去年と同じで新聞の集金の時に無料チケットをもらった。「表層の冒険」展(片柳学園ギャラリー鴻)は最初から無料だった。「百年の編み手たち」展は、東京都現代美術館リニューアル・オープン記念で、3月28日には終日全館無料だったのである。
     まず「VOCA」展。今年も、全国の美術館学芸員や識者から推薦を受けた40歳以下の若い人々の中から、5名の審査員による審査を通過した32名と1グループによる“平面”作品が展示されていた。“平面”と記しているのは、映像作品もレリーフ状の作品も多く含まれているからだ。大賞の東城信之介氏の作品は金属板にグラインダー様の電動工具を当ててできる線状の複雑な痕跡と描いた線状の形状などとが複雑な「見え」を生じている。これだけなら、すでにデビッド・スミスのような人の作品でおなじみの表情であるが、スミスの場合が彫刻作品の表面の表情であるのに対して、本庄作品では「平面」として限定された中で何かの描画材での線描とが組み合わさっての表情の現れなので一層複雑な「見え」を生じていて、絵画とは異なる世界を現出していた。私はKOURYOUという不思議な名を持つ未知の人の実に丁寧によく描きこまれた“地図”のような絵やレリーフ状の作品に好感を持ったのだが、その横には白色で下地を施したらしき大キャンバスにピンク色を刷毛で塗って刷毛目が残ったりタレが生じたり層の厚みのわずかな違いが生じたり‥‥というだけの作品(作者名を失念! 申し訳ない)があって、しかし、そのピンクの微妙な表情の違いへと、隣のKOURYOU氏の作品の細部へのようには目をこらすことができないことにふと気付いてしまった。ああ、絵の具が垂れてるのね、ああ筆触が見えてるのね、と確認するともう私の目はそこから視線を逸らしているのだった。何故じっと見入ることができない? と素朴な疑問を抱えながら、その後は気もそぞろ、ということになってしまったのだった。答えはまだ見つからない。
  •  「表層の冒険」展には、実はすでに一度行ったのだったが、その日には大掛かりな催しがあったらしく、人が大勢いて全く落ち着いて見ていることができなかった。で、もう一度チャレンジした次第。この展覧会は、批評家谷川渥氏の企画で、6名の実行委員会が中心になって行われている(らしい)。今回で二回目の自主企画である。「抽象のミュトロギア」と副題がついて、44名の作家がそれぞれ2〜3点の大作を並べている。既知の人も未知の人もいるし、具体的な形=具象を描いている人もいたが、「抽象」とされる様式で一定のキャリアを積み上げてきた人たちが谷川氏あるいは実行委員会からの呼びかけに応じてここに参集しているように見える。二度目に訪れた時にはじっくり見ることができたが、多くの作品に見受けられた身振りの激しさ(絵の具の飛沫、滴り、“ダイナミックな”筆触)ゆえか、やはり落ち着いて見入ることは私には難しかった。とても久しぶりに見た赤塚祐二氏が印象に残る。というのも、絵のサイズが他の人たちに比して極端に小さかったし、額縁(いわゆるカリブチ)の処理が実に独特だった。絵も今までとは随分違った印象だった。そういうわけで面白く見たのである。また、工藤礼二郎氏のほぼ白一色の絵には画面のヘリにごくわずかに複数の色彩の誕生が示唆されており、禁欲的で寡黙な仕事ぶりの中に光のようなものを呼び込みつつある氏の変化を見ることができた。
     「百年の編み手たち」(東京都現代美術館)は、とても面白かった。大正時代から近年までをほぼ時系列で概観できるだけでなく、私のように不勉強な者が知らずに過ごしてきた例えば中原實という人の作品が丁寧に紹介されていてじつにタメになった。オノサトトシノブの戦前の作品や桂ユキの初期作品なども初めてみたし、柳瀬正夢の並外れた器用さも再確認できた。柏原えつとむ『方法のモンロー』の全貌も初めてみたし、全く退屈しなかった展覧会であった。コレクションでこれだけの展覧会を構成できるのだから、東京都現代美術館はあなどれない。この文の冒頭に述べたように、無料解放だったゆえか、多くの人で賑わっていたが、大きな壁一面に多数の中原實作品をレイアウトし展示していた前で、ドイツ語を話す若い西洋人の男女が、あれはキリコ、あれはモディリアニ、と言いながら何事か語り合っていたことが今なお印象に残る。後日またゆっくり訪れたい。
     ともかく沢山の作品を見た週だったのである。

    2019年3月29日、東京にて

    VOCA展 
    http://www.ueno-mori.org/exhibitions/main/voca/2019/
    表層の冒険/抽象のミュトリギア
    https://motion-gallery.net/projects/surface-adventure
    上記終了

    百年の編み手たち
    2019年3月29日~6月16日
    東京都現代美術館リニューアルオープン記念展

    https://www.mot-art-museum.jp/

  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
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