藤村克裕雑記帳
2015-01-26
  • 色の不思議あれこれ025
  • 2014年12月京都で小谷元彦展を見た(3)
  • 私が入場した時、映像は、女性が“装置”に囲まれた椅子に座って刺繍をしているところだった。私はすぐ、なぜか、昔見たハービー・ハンコックのプロモーションビデオを想起した。うろ覚えだが、ロボットだったかサイボーグだったかが登場して強烈な印象のPVだった。時間を経てもずっとロボットのことなどが気になっているのは、そのせいもあるだろう。
    同時に、映像に登場する女性と同じような障害を持った女性作家の作品を、先頃の「愛知トリエンナーレ」で見たことを思い出していた。それはその女性作家が自分自身の姿を撮った大きな写真作品や丹念に作られた数知れないオブジェで構成された作品だった。耽美的な内面を素直に示した作品だったように記憶していたが、小谷展の会場を出たあとチラシを見て、これらは同じ人で片山真理という人だ、ということを知った。当然のことながら、この映像作品では彼女の作品世界とここに登場する彼女とがダブって見えてくるところはない。
    もうひとつ連想したことを述べれば、マーシュ・バーニーが『クレマスター3』で義足の女性ランナーを作品に起用していたことだ。その女性ランナーは両足透明な義足で登場していた。
    これらは、断片的な要素からくるただの連想に過ぎない。とはいえ、メモ程度には記しておこうと思う。
    小谷氏の作品は、最初期から一貫して、誰もが保持する生理的な感覚、その感覚の中でも、おそらく最も原初的な「痛覚」のようなものを見つめさせながら、人間って何?と問いかけているように私は思う。だから、小谷氏の作品はいつもこわい。今日リアルなのはそういう感覚の所在だけだ、とでも言いたげである。今回の作品でも、義足の装着部の痛みのことはもちろん、刺繍の針、紙を切るハサミ、ドリルの回転、その回転ではげしく枠にぶつかる部品の腕、型取りされた手に握られたメスなど、直接痛みのイメージに繋がっている。
    もうひとつ、小谷氏の作品には、回転運動、あるいは渦巻き運動への着眼・嗜好があって、この作品でもそれは一貫している。“装置”の動力源のモーターの回転や黒子の回すハンドルなどはもちろん、考えてみれば、私たちの体の動きもまた、回転運動の組み合わせで成立している。もっといえば、回転運動をピストン運動に変換することも重要である。上下左右への運動。コロや車輪、プーリーやカム。義足で歩行するときなどは、こうしたことがより自覚されてくるだろうし、義足での歩行を見ても体の中に普段と異なった感覚が生じてくる。それ故の義足の女性の登場だったろう、とさえ感じた。別会場の大きな作品(『Terminl Documents(ver2.0)』)はまさに回転運動・渦巻き運動を露わにしたものだった。回転運動・渦巻き運動もまた、「畏怖」のような「怖れ」のような人間の原初の感覚を呼び起こす。
  • さらにあげるなら、別の姿への変身・変容、とでもいう要素も指摘できるかもしれない。仮面、メイク、カツラなどのことは見逃せない。義足もまた機能のみからあるのではないことを考えるなら、ここには興味深い問題がたくさん含まれている。
    以上、メモ程度の“報告”にすぎないが、強く印象づけられた発表だった。このすぐれた若い作家が今後どう展開するか、さらに注目していきたい。
    あ、最後は人形ともロボットとも関係のない話になってしまった。
    (2015年1月11日、東京にて)
  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
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