藤村克裕雑記帳
2019-11-01
  • 色の不思議あれこれ151
  • 「DECODE:出来事と記録」展 その2
  • まず、金村修氏の作品に迎えられた。完全に“想定外”。どこか野外の過酷なところにあらかじめ展示されていたような印象の、ダメージだらけの写真群。それと映像作品である。
     写真は壁と床に展示されている。壁には脱色してしまって像がほとんど消えている風景写真が整然とピンで留められている。床には黒々としたシミや汚れが共存している風景写真がよれよれになって重ねられて重しで押さえられている。私の知っている金村氏の写真とは随分印象が違う。
     ビデオ撮影による映像は壁への二つのプロジェクション。少し間をあけて同じ大きさで横に並んで映写されている。片方からはノイズ様の音も出ている。二つで一つの作品なのか一つずつの作品なのか判然としなかったが、私は一つずつ順番に見た。二つ同時にも見た。
     長いカットと目まぐるしく切り刻まれたカットが交互に出てくる。モニタの映像をさらにビデオ撮影したようなカットが、看板やポスターを入れ込んだ金村氏の写真作品を連想させる。雨や風のカットが多く登場し、近頃の台風被害を予言しているかのようにも見えてくる。金村氏の映像作品を始めて見た。私は金村氏の写真が好きで、比較的見てきたほうだと思う。家のどこかに金村氏が書いたほんもあるはずだが今見つけることができない。それには、背中に太陽の光を受けるようにしてどんどん歩いて撮影していく、というようなくだりがあって、そこに痺れたものだ。今回の映像も私は好きだ。壁と床の多数のダメージ写真は正直ビミョウ。近年はこういう仕事ぶりなのだろうか。
     次の部屋に映像版『位相—大地』のプロジェクション。『位相—大地』の制作過程を写した写真の複写を7分に構成したものだ。おう! これを見たかったのだ。先のカタログの図版で知っていたたくさんの写真に、さらに何枚も加わっていて興味が尽きない。が、このプロジェクションでも“ハリボテ説”の証拠となるものは見つけることができなかった。
     大きなガラスケースには関根氏の実に多くの資料類。これも実に見応えがある。手稿、スケッチ、マケット、案内状、ポスター、パンフレット、カタログ、著書、郵便物、写真などなど。環境美術研究所の多くの資料もあって、まさに関根氏の活動の全貌を示す貴重な一次資料と言える。実に見応えがある。
     他に、同時代の作家たちの作品や、彼らの作品を撮影した写真(安斎重男、中嶋興などによる)を映像化したプロジェクションなどで手際よく構成されていた。
  • ただし、疑問も否めない。
     写真をなぜわざわざ映像化してプロジェクションするのか? 写真は写真のままその実物を展示する方が絶対にいい。美術館なんだから、極力そうしてほしい。
     雑誌やカタログなど印刷物をカラーコピーしてガラスケースに収める、というような展示もなんだかなあ、という気がする。カラーコピー程度なら、観客が手にとって見ていけるような配慮がなされるようなときに用いるべきだ。ガラスケースにはせめて“実物”を入れてほしい。
     また、小松浩子氏の展示は、その物量は確かにすごい。写真作品の上を歩かせてしまうのもすごい。すごいが、だからと言って、それでどうした? と思うのだった。
      
     そんなこんなで、年内には完成する、というカタログを注文して帰路についた。概ね満足しながらも、やはりスッキリしない気持ちも残ったままなのだった。
    (2019年10月31日、東京にて)

    ●会期:2019年9月14日 (土) ~ 11月4日 (月・振休)
    ●休館日:月曜日(9月16日、9月23日、10月14日、11月4日は開館)
    ●開館時間:10:00 ~ 17:30 (入場は17:00まで)
    ●観覧料:一般1100円(880円)、大高生880円(710円)
    ※( ) 内は20名以上の団体料金。
    ※中学生以下、障害者手帳等をご提示の方 (付き添いの方1名を含む) は無料です。
    ※併せてMOMASコレクション (1階展示室) もご覧いただけます。

    ●会場:埼玉県立近代美術館

    公式HP
    http://www.pref.spec.ed.jp/momas/index.php?page_id=414
  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
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