藤村克裕雑記帳
2022-07-19
  • 藤村コラム220
  • パトリック・ボカノウスキーの映画『太陽の夢』を見た
  •  宮本武蔵には子供がいたかどうか? と唐突に尋ねられて、え? いなかったんじゃないの? と答える。すると、どうしてそう言える? とさらに言うので困ったりしていると、武蔵、子がねえ(武蔵小金井)、と言ってニッコリするのである。

     桃太郎の家来は? と言うので、猿と犬と雉、と答えると、その中で屁が一番臭いのは? とさらに言うので、え? なんでそんなこと聞くの? と言うと、いいから、どれが一番臭い? と言うので、猿かなあ、とか適当に答えると、どうして猿? と言ってくるので、いや、テキトーなんだけど、とか言っていると、猿のは臭え(猿の惑星)、と言ってニッコリするのである。

     O君の仕業であった。実にくだらない。くだらないのが面白かった。

     そんな大昔のことを思い出したのは、武蔵小金井まで映画を見に行ってきたからだろう。もちろん『猿の惑星』をではない。
     パトリック・ボカノウスキー監督の『太陽の夢』(2016年)。いわゆる「実験映画」と言われる映画である。
     パリ在住のボカノウスキーさんは1943年生まれというから今年79歳。知る人ぞ知る、という人のようである。知らなくてももちろん構わない。普通は知らないはずだ。私だって知らなかった。

     数年前、同じ監督の代表作=『天使/L’ANGE』(1982年)という映画の試写会に行ったことがあった。その時は不覚にも途中で眠ってしまった。せっかく試写会に招待してくれた「ミストラル・ジャパン」の水由章氏に申し訳なくて、本当に合わせる顔がなかった。
     その水由氏が、先日、SNSにこの『太陽の夢』上映の情報を載せていた。それを見つけて、今度は絶対に寝ないぞ、と気合を入れて出かけて行ったのである。

     万が一寝ちゃったらどうしよう、なんて心配は無用であった。60分以上の間、スクリーンにはめくるめく多重露光の映像が展開して、私は息をするのも忘れていたかもしれない。もちろん息はしていたわけだが、堪能、ということをさせてもらったのだった。めっちゃ面白かった。
     は? めっちゃ面白かった? それだけ? お前はアホか? と内なる声が聞こえる。聞こえるが、私の超貧弱な表現力では、すっごく面白かったのであります、とか言い換えるくらいで精一杯である。まったく言い換えにはなっていない、それは分かっている。が、いかんともしがたい。
     あ、多重露光、と書いた(打ち込んだ)が、この作品はデジタルで制作されているのだそうである。デジタルでは、複数の画像が重なることを、多重露光とは言わないのかもしれない。私はホームビデオの編集すらやったことがないので、そういうことは分からないのだ。もちろん、そのことを威張っているのではない。自分の保守性はイヤになっている。
     壁などに映写された映像を撮影した画像、コマ撮りの画像、人物の逆光の全身像が海面に映り込んでできる反映像も逆さまにして実像のような画像として使われて、それらが重ねられていく。単一な意味性に収斂することを極力排除しながらの展開である。その映像空間は、煌めく水面とか移動する列車の車窓から木々の間に見える太陽とか、光、ということで一貫しているものの、多様な様相を帯びていて、観客を飽きさせることがない。デジタルならではの色彩の変換なども動員されているし、残像効果も巧みに挿入される。結果、視覚性と意味性とが一つところに止まることがない。私の視線は重なり合った像の層の間を行ったり来たりしながら、不思議な空間をさまよっていた。物語性はないが、巧みな構成へ向けられた意志も感じさせられていた。映画でなければできない表現を目の当たりにした、という印象であった。
  •  あんまり面白かったので、次の日にもう一回、今度は家人を引き連れて見に行ってきた。

     やっぱり面白かった。家人も、面白かった、と満足気であった。よかった、よかった。

     私は二度見たので、もうちょっとマシなことがここに書けてもいいはずだが、やはりアホのままである。二度目も、チョー面白かった、ということなのである。
     家人は初めてなのに、映画の感想をなんとか言葉にしようとして、それがそれなりに巧みであり、帰路の電車の中であれこれ喋っていた。
     私の方はと言えば、ついさっき見てきた映像がすでにさまざまな断片になって、それらがどんどんこぼれ落ちていくような気がしていた。今、こうしてこの文を書きながら(打ち込みながら)さっき見てきた映像の姿を時系列でなぞろうとすると、もうすでに空白(あるいは暗黒?)と化してしまったところがいくつもいくつも生じてしまっているのに気付かされる。えーん。
     家人が言うには、前日映画を見てきた私はこの映画のことを、キラキラしている映画、と言っていたそうである。それは、内なる声どころか外からの声である。なんとも情けない。
     情けないが、この映画(『太陽の夢』)がじつに面白いことだけは確かである。ぜひご覧になられると良い。私は、ああ、また見に行きたい。 
     この後は、渋谷の「シアター・イメージ・フォーラム」であと4回のみ(!)上映されるそうだ。7月30日(土)、8月1日(月)、8月3日(水)、8月5日(金)。いずれも21時から。
     なお、7月31日(日)、8月2日(火)、8月4日(木)には『天使/L’ANGE』を上映するとのこと。これも21時から。
    (2022年7月19日 東京にて)
     
    シアター・イメージフォーラム
    https://www.imageforum.co.jp/theatre/movies/5498/
    予告編
    https://www.youtube.com/watch?v=75g0wYS4A0g
     
  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
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