藤村克裕雑記帳

色の不思議あれこれ191 2020-11-18

東京国立博物館で『桃山・天下人の100年』展を見た

いよいよ秋らしくなってきて、晴れた日が続く。散歩とかには最適だろうが、閉じこもってばかりいる。閉じこもって何をしているか? 探し物である。
 つい先日まで調べていた本をもう一度確認したいが行方不明である、大事な手紙やメモがどこかに紛れてしまっている、あのネジを使いたいが見当たらない、などというようなお恥ずかしい次第で、探し物で私の残りの時間がどんどん過ぎ去って行く。時に何を探していたのかを忘れて、たまたま目に留まった古新聞とかを読みふけり、そのままさらに寄り道して、寄り道したことも忘れて日が暮れていることもある。しまった、と思ってもあとの祭り。完全にボケ爺さんの姿である。
 コロナ騒ぎで閉じこもり生活が続いて、歩き方を忘れた。なんだか、一歩一歩がおぼつかない。どうやら筋力が極端に低下しているらしい。さすがに、このままではまずい、と思うようになった。歩くことを意識している。
 今日は上野に電車で行ってきた。拙宅から上野まで、徒歩では私には無理である。歩いたのは公園。それと博物館。家人に『桃山展』の予約をしてもらってあったので、その見物に行ったのである。それにしてもムッチャ高い入場料だった。えいっ! と奮発というものをしたのだった。
 そういえば、先日も上野に来た。意味不明の芸大での展示が気になったからだ。すでにタイトルも忘れているが、現美術学部長の日比野克彦氏の渋谷の仕事場がなくなるのでそれを保存する展示、とかなんとかいう趣旨だった。なんでも、保存修復ということをするらしい(すでにあったはずだが)研究センターが芸大に新設されたらしい。そのお披露目の意味の展示だろう。学部長自ら、まな板に乗ることを買って出たのかどうかは知らないが、犠牲的精神で料理されてみたのだろう。
 で、見物したのだったが、ほとんど興ざめだった。エクスアンプロヴァンスで保存されているセザンヌのアトリエに佇んで感慨にふけったのとはワケが違っていた。このセンターが何をやろうとしているのか何も伝わって来ず、現油画科教授小林正人氏がパネルで述べていた「愛」のことだけが記憶に残っている。センターが「愛」で貫かれればそれはそれで結構なことではある。

そういうわけで、日をおかずやって来た上野。私は、狩野元信の前で、動けなくなった。まず、大仙院「四季花鳥図」。素晴らしかった。これでもう、入場料のことは完全に帳消し。むしろ、感謝したいくらいだ。
 大仙院で、こんな風に見る条件を整えたこの作品の展示を見ることはできない。あきれるほど素晴らしい。というか、さっき出来たみたいだ。実に繊細でありながら堅固、様式的でありながらそんなものからはみ出るほどのリアルさ、実に上品でしかも強い、、、、ああ、言葉が貧しすぎる。素晴らしい。ため息が出る。以前、サントリー美術館での『元信展』でもこの絵は見ていたはずなのに、記憶がおぼろげになっていたし、今回は実に身に沁みてくる。本当に素晴らしい。
 隣には、信じがたいほどの緑の豊かな階調の、元信「四季花鳥図屏風」があって、これも素晴らしい、としか言いようがない。
 私は、この二つの前で多くの時間を過ごしたが、他にもあきれるようなものがあきれるように並んでいる。こんな至福の時間は滅多に得られるものではない。また、行きたいが、貧乏人には高い。どうする? うーん、悩む。
 まだ、の方は、ぜひお出かけになられると良い。
(2020年11月12日、東京にて)

特別展「桃山―天下人の100年」
●会期:2020年10月6日(火)~11月29日(日)

前期展示:10月6日(火)~11月1日(日)
後期展示:11月3日(火・祝)~11月29日(日)

●会場:東京国立博物館 平成館[上野公園]
午前9時30分~午後6時

※金曜、土曜日は午後9時まで開館
月曜日(ただし11月23日[月・祝]は開館)、11月24日(火)

公式HP:https://tsumugu.yomiuri.co.jp/momoyama2020/






藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

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