藤村克裕雑記帳

色の不思議あれこれ059 2017-01-26

岩槻に行ってきた(1)

岩槻に行ってきた。終了間際の「さいたまトリエンナーレ2016」。なかなか時間がとれなくて、もう、本当に一部しか見ることができないのが分かっていたから、一カ所だけでも、と岩槻の「旧民俗文化センター」を目指したのだった。拙宅から片道二時間、無料バスの待ち時間などもあるし、午後の帰宅時間を厳守せねばならない当方の事情もあった。滞在時間は限られていた。
 訪れてよかった。
 なによりも、「目」の屋外インスタレーション。ビニール製のバッグを渡され、写真撮影はダメ、作者がネタバレを恐れているのでネタバレせぬよう配慮してほしい、など注意があって、意外な仰々しさだ。順路も定められている。ネタバレ、というが、この文がここに掲載される頃には、「さいたまトリエンナーレ2016」は終了しているはずだ。会期終了後、作品は撤去する、と現場の係の人が言っていたから、もうネタバレさせてもよいだろう。
 ブッシュの中に作られた細い踏み分け道を行くと、視界が開け、小ぶりな“沼”に出る。水が濁って感じられるので、池、という感じではない。でも、池でも沼でもよい。水が溜っている広がりがある。
 靴を脱いで中に入ってみて下さい、と係の人に促され、え? と思うが、冷たいだろうがやってみるか、と靴下も脱ごうとすると、係の人は、靴下は脱がなくても大丈夫です、と言う。は? と訳が分からずに逡巡していると、上に乗ることができますから、とさらに言うのだ。乗れなかったらびしょ濡れだが、ま、いいか、と靴をビニールバックに入れて、降りてみると、あれま、ホントだ。乗れるじゃないの。
 水だと思っていたのは、水ではなくてどうやら樹脂のようだ。がっちりしていて、薄い皮膜のような構造体ではないのが分かる。これ、何? と係の人に尋ねると、よく分からないですが、自動車とかに使うものらしいです、と答えてくれる。フッ素樹脂? と尋ねると、よく分からないんです、と正直だ。ま、なんでもよい。ともかく、池や沼のような姿を借りて、「水平面」がかなりの精度で実現されている。これはすごい技術だ、と感心した。

「水平面」といえば、定盤とかはもちろん水平に設置されるが、私などはただちに原口典之さんの廃油の“プール”を思い浮かべる。原口さんの“プール”は廃油を使ったがゆえに実現できた“絶対水平面”だ。表面に落ちてくる埃なども廃油が“飲みこんで”“絶対水平面”は混じりけのない鏡面効果を生じる。とってもカッコいい。今風になら、カッケー! か。私は、大好きだ。超越的な絶対性みたいな世界にまみえるような感じが素晴らしい。
 原口さんの場合、“プール”は多くの場合、厚みが薄い直方体、つまり幾何学的な形状をしている。例外的に1988年に白州で作った“水のプール”があるが、この場合でも直線的な形状の“プール”で、池や沼を連想させるものではない。というか、自然になじまないように、言ってみれば池や沼には見えないように、と配慮されている。

藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

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