藤村克裕雑記帳

色の不思議あれこれ108 2018-10-04

「おべんとう展」を見た

 暑い、暑すぎる、とか言っているうちに、いつの間にか、肌寒いくらいの朝を迎えるようになってしまった。雨の日が続いて、TVの気象予報士が台風24号の不気味な進路予想をしている、そんな今日この頃である。
 東京・上野・東京都美術館で開催中の「藤田嗣治展」を横目に、同じ館で開催中の「おべんとう展」を見た。ギャラリーA・B・Cを使っての企画展である。
 新宿歴史博物館やお辨當箱博物館、瀬戸曻コレクション、国立民族学博物館所蔵の古今東西の色々なお弁当箱などの陳列からはじまって、それはそれで興味深いのだが、いささか呑気に見始めた。
 が、すぐにびっくりさせられたのである。というのも、阿部了という人の写真による作品の展示の中に、私の古くからの友人・松井利夫氏と松井氏のお弁当が被写体として登場していたのだ。松井氏については、先日、三鷹の無人古本屋を紹介した時、ムジン繋がりでここに書いたばかりだった。あれれ、ムシの知らせ? びっくり!
 早速、「写メ」というやつで、京都の松井氏に知らせてやろうと思ってガラケーを取り出そうとした。しかし、気配を察知した“監視”の女性から、撮影は禁止されています、とピシャリと言われてしまった。これ、私のトモダチなんですけどそれでもダメですか? と食い下がったがムダだった。著作権がありますから、と相手にしてもらえなかったのである。残念無念。
 再び呑気な気分に戻ったところで、北澤潤という未知の人の「FRAGMENTS・ PASSEGE —おすそわけ横丁」に出くわした。
白く塗装した足場用のパイプを構造体にして屋台のような市場のような賑々しい「場」が作られている。布の使い方、ものの並べ方がうまい。お店のようでもあるが、単純にお店ではなさそうである。「売り買い」をしている気配がないし、食べ物や飲み物など屋台や市場につきもののものが全くない。もちろん呼び込みもない。
 置かれているチラシを見ると、ここは「バザール」で、並んでいるものは誰かからの「おすそわけ」なのだそうだ。北澤氏が考え出した「おすそわけ」をやり取りする仕組みを、「おすそわけ組」という有志が運営・管理しているらしい。奥に「スクエア」。「おすそわけ」された物品の台帳が閲覧できたり、「おすそわけ」してもらう人が所定の手続きをしたり、その台帳が閲覧できたり、休憩もできる。時にはワークショップも行われるらしい。さらに奥には「ライブラリー」。ここでは各種の「おすそわけボックス」をレンタルしている。このボックスに入れて「おすそわけ」を持ち込むのだそうだ(ただし、すでにボックスのレンタルは終了)。
 「おすそわけ」という“風習”を手掛かりに、未知の人同士の“コミュニケーション”を形成しようというのだろう。あわよくば、共同体の幻を出現させたいのかも。
 「おすそわけ」というのがいいところをついている。この「バザール」に集まっているものは、誰かが不用品を処分したものではなく、心ある「おすそわけ」なのだ。贈与とか交換の隙間。一見、ガラクタのように見えても、「おすそわけ」した誰かにとっては断じてガラクタではないのである。そこには“愛”がこもっている(はずだ)。
 思い切って私も「おすそわけ」にあずかった。それは正直、物欲が動機である。“愛”に応答したのではない。
 「おすそわけ組」の若者の前で、簡単な手続きをするだけで、ある物品を「「おすそわけ」してもらえた。梱包までしてくれた。なんだか、後ろめたさのある妙な気分だった。   
 たまたま展覧会にやってきただけの理由で、誰かから贈与を受けるいわれなど全くないのだから、妙な気分になるのは自然だろう。ラッキー、というのとも違う。かりそめの仕組みに出くわして、物欲に負けただけなのである。
 私は、「おすそわけ」にあずかった品物を持ち帰って、汚れを拭き取り、拙宅壁に飾った。とってもかっこいい。かっこいいのだが、妙な気分がまた蘇る。はて、「おべんとう」とどんな関係がある?  

2018年9月26日、東京にて

公式HP:http://bento.tobikan.jp/

 

 

藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

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