藤村克裕雑記帳

藤村克裕雑記帖243 2023-09-25

お相撲、千秋楽

お相撲=九月場所が終わってしまった。
 結局、今場所はカド番大関だった貴景勝が11勝4敗で優勝。優勝決定戦では、立ち会いで頭を下げて突進する平幕熱海富士を左にかわしながら熱海富士の頭を押さえつけて土俵に這わせる、という相撲をした。突進した熱海富士の側からすれば、はるか格上の貴景勝は自分の当たりを真っ向から受けてくれなかったわけである。テレビに映し出された熱海富士はとっても悔しそうだった。
 大関になってからの貴景勝が、ケガ続きでいかにも大変なのは理解できる。関脇大榮翔を相手に真正面から戦って勝利し、そのまま時間を置かずに臨まねばならなかった優勝決定戦だ。相手は若くて勢いがある。心を鬼にして勝ちにいった、ということだろう。本割りでは力の差を見せつけたわけだし。
 とはいえ、テレビの前でぐうたらしながら観戦する私のようなものには釈然としない気持ちも残る。野次馬とはいかにも勝手なものだ。
 
 それにしても、お相撲の世界は大変な世界である。どの力士もむっちゃ強そうで、実際にむっちゃ強い。そして、誰もが熱心に稽古して鍛え上げる。実にひたむきである。全てをお相撲に捧げている、というように見える。貴景勝の優勝インタビューはそんなことをあらためて感じさせてくれた。
 幕内の土俵入りを見ていると、こんな人たちの中で戦って、抜きん出るのはいかにも大変だろうなあ、と思う。ゾッとするくらいだ。十両の土俵入りならどうか、と見てみても同じように思う。では、幕下ではどうか。
 幕下に土俵入りはない。NHK-BSで午後一時からの相撲中継を見ると、三段目くらいからの取り組みを見ることができる。これを見ると半日が全て潰れてしまうが大変勉強になる。幕下はもちろんのこと、三段目だからといって、手抜きの相撲は一番もない。互いに精一杯ぶつかり合って懸命に相撲をとっている。三段目よりさらに下位の序ニ段、さらに下位の序の口でも懸命さは変わらないだろう。そういう人々が勝ち負けでしのぎをけずっている。すごい世界である。
 そんな中で頭角をあらわし、幕下、十両、幕内と登って行って、登るだけでなく落ちたり登ったり、怪我をしたり、治ったり治らなかったりして、その都度格付けされる。お相撲は番付社会なのだ。だから、三役、横綱と簡単に言っているが、これはもうとんでもない人たちなのである。尊敬ということに値するだろう。
 尊敬、ということでは、例えば今場所三段目優勝の北播磨。の言葉に感動した。今年37歳で、登ったり降りたり、今三段目の北播磨は「相撲がますます好きになった」というのである。

 さらに、今場所の私の収穫は、熱海富士の付き人のシコ名が聖富士(さとるふじ)、と知ったことである。聖富士哲平。取り組み前の通路で熱海富士の肩を揉む手がいかにもかわいい。熱海富士と良好な関係が伝わってくるいくつものシーン。今は三段目のようだが(私がテレビで確認した時は勝っていた)、三段目の力士のシコ名を覚えたのは初めてである。頑張ってほしい。
 決定戦のために通路にいた貴景勝には付き人が三人いた。不覚にして知らなかった。横綱になるともっと増えるのであろうか? 来場所、確認できるかどうか。

 あ、もうひとつ。
 テレビで相撲を見ていていつも思うが、力士が通路にいる時と花道にいる時、肌の色が異なって見える。通路では青ざめて見えているのである。これは照明具に原因がある。通路では蛍光灯が使われているのだろう。力士の肌の色が 映えるように、相撲協会は通路の照明具を少し配慮してはいかがであろうか。通路壁の「テッポウ、四股 厳禁」の貼り紙はとても微笑ましいのではあるが。
(2023年9月24日、東京にて)


浮世絵画像
三代歌川豊国《東ノ方土俵入之図》弘化2年(1845)城西国際大学水田美術館蔵

藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

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