HOME > 藤村克裕雑記帳
  • 2016-09-16
  • 色の不思議あれこれ056
  • ▸若冲展のこと
  • 上野、東京都美術館で開催された『若冲』展は、連日の“大にぎわい”で、長大な行列ができ、3時間待ち4時間待ち、5時間待ち、…、とかいうので、あまりといえばあまり。私は断念した。招待券もあったのに。
    じつは、展覧会開始早々の雨の日に、こんな日ならひとも少ないだろう、と出かけたのだが、すでに行列ができていて、40分待ちというのであきれ、さらなる悪条件の日を狙って出直そう、とカタログだけ買って帰ってきたのだった。
    そのことを家人に言うと、家人は、若冲展の混雑状況は毎日インターネットで知らせてくれているはずだからちゃんと調べてから行けば? と言った。で、気の向いた時にチェックすると、待ち時間はどんどん長くなっていた。2時間も3時間も、おっと5時間も、それ以上も。そんな長時間をひたすら並んでいる集中力は私にはない。この国の人々がこんなに美術を愛好しているのを目の当たりにするのは喜ぶべきことである。
    聞くところによれば、過酷な行列に耐えてやっと入場したと思ったら、止まらないでください、止まらないでくださーい、との怒濤の“誘導”。見えるのは他の観客の頭、頭、…。最前列に到達するには更なる忍耐を要し、最前列に辿り着けたとしても、止まらないで、と移動を促されるのだ。観客は皆、おとなしく従っていたそうだ。
    ひどすぎる。
    なにが? 
    この状況が。
    テレビ、ラジオ、新聞、雑誌をはじめ、ツイッターやらなんやらの、考えうるメディアを総動員した“話題の展覧会”では、いつも同じことが繰り返される。その理由が分からない。(ほんとは、儲けるため、とみんな知っている)。とくに今回はNHKが先陣をきっての広報活動。だれもが関心を寄せ、実物を見てみたい、と思ったのは目に見えていたではないか。(ほんとは、みんながそう思い込んでしまうように仕組まれていたわけだ)。煽るだけ煽って、さばききれない程の行列ができても、せいぜい熱中症に気をつけて、とか、飲み物持参で、とかの注意喚起がなされるだけ。
    会期延長はさすがに難しいとしても、開館時間の大幅延長とか、休館日も開館するとか、せめて主催者側はドロナワの工夫さえできなかったものだろうか。
  • そんな不満たらたらの若冲展だったが、佐藤康宏さんというひとが書いた実に興味深い文を見つけた。『UP』6月号(東京大学出版会)に所収の「日本美術史不案内86・ある誤報」。『UP』の読みは、アップではなく、ユーピーだって。開催中のO JUN氏の個展会場のミズマ・アート・ギャラリーでもらってきたものだ。O JUN個展「飛び立つ鳩に、驚く私」は6月25日まで。いつもながら、実に面白かった。
    あ、話は佐藤康宏氏の文のことだった。
    その佐藤氏の文によれば、2016年1月24日『日本経済新聞』の記事(若冲『孔雀鳳凰図』を83年ぶりに発見、との記事)は、誤報、しかもそれは若冲の贋作、とのことである。
    誤報、というのは、30年程前、佐藤氏自身が文化庁の役人をしていた時に、ある生命保険会社で実見したから、ということである。
    佐藤氏は、その作品が贋作であることの指摘もその時に行なっていて、このことは、いまから15年程前に出版された『分ける』(東京大学綜合研究会編、東京大学出版、2001年)の中にも書いた、とある。だから、83年ぶりの新発見なんて誤りだ、というのである。
    それだけでなく、件の作品は贋作だ、と述べているのだ。
    贋作だとの根拠は、「描写の密度が全く不足している」こと、その密度不足を若冲の初期作品だからと解釈しても署名の書体との整合性がないこと、使われている顔料が若冲の真筆とちがっていること、などをあげている。
    佐藤氏は、若冲の真筆、宮内庁三の丸尚蔵館蔵『旭日鳳凰図』と、同じく宮内庁三の丸尚蔵館蔵「動植綵絵」のうち『老松孔雀図』とを挙げ、贋作者は、これをもとにして描いた、と断言しているのだ。
    ひえーっ! 
    今回の若冲展の呼び物の一つが贋作だってかい。
    佐藤氏も指摘しているが、NHKはこの「新発見」作品で特番を作っていたではないか。私もみた。録画もした。
    その番組の中で、超有名なふたりの学者さん(辻惟雄氏、小林忠氏)は、件の新発見作品を前に、そろって感嘆の声をあげていたけど、あれは“演技”だったのかい。
    言葉は悪いが、みんなグル、だってかい。
    カタログで確認すると、この若冲展の主催は次の通り。東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団、日本経済新聞社、NHK、NHKプロモーション。また、NHKの特番に登場したおふたり。辻惟雄氏は超有名な本『奇想の系譜』で若冲を世に知らしめた“若冲ブーム”の立役者といってよい人だし、小林忠氏は件の「新発見」作品の所蔵先の岡田美術館の館長。なんだかなあ…。
    情報に煽られて、ひどい目に遭うのはいつも庶民だってかい。
    ああ、やりきれない。ちなみに、佐藤康宏氏もまた学者さん(東京大学大学院教授)。この人も若冲の専門家だといってよいだろう。そのような人が、根拠なくでたらめを言っているはずはなさそうだが。
                         
    (2016年6月4日、東京にて)
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